講談社BOOK倶楽部

幸せすぎるおんなたち 雀野日名子

『幸せすぎるおんなたち』雀野日名子

ご愁傷様。逃げるなら、今のうち。

持ち家率、女性の働きやすさ、子育て環境満足度etc.…… 堂々の全国第1位!! 日本一幸福なX県へいらっしゃい 幸せを支えているのは、 この土地特有の恐ろしすぎる真実。

『幸せすぎるおんなたち』
著者:雀野日名子
定価:本体1,400円(税別)

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日本海側に位置する、とりたてて特色のない雪国・X県。地産地消の食べ物、整った子育て環境、健康長寿。X県を彩る言葉は女たちを縛り付けて、放さない。 30歳の蒼子は、代々X県に土地を持つ家の一人娘。夫と二人きりで、自らの実家で穏やかに暮らしていた。彼女が自分の姿を重ねるのは、隣家を守り続けてきた番犬トウマ。年老いたトウマは、飼い主の母娘に虐げられていた。蒼子はまだ知らない。彼女を取り巻く人々の悪意が、幸せの裏で膨れあがっていることを。(「隣犬トウマの破顔」)X県で暮らす6人の女性の幸せの歪みを描く、連作短編全6話。

  • 作家を志したきっかけを教えてください。
  • いつか自分の書いた物語を出版したいという願望は20代の頃から抱いていましたが、プロ作家になろうという考えは強くなかったのです。毎年あまた誕生する新人賞受賞者の生存率は難治癌の生存率と同じだと聞いていましたし、運良く生き残ったとしても出版不況の時代ですし。
    ですから当初は自費出版を考えていました。でも想像していたより費用がかかると知り、計画変更。「受賞作は出版」と応募要項に書かれている新人賞に原稿を送ることにしたのです。けれども「最終候補→落選」を繰り返すことになり、「やはり自費出版するしかなさそう。働きながら費用を貯めよう」と。
    そんな折、地場産業の衰退や相次ぐ企業撤退の影響もあって失業し、自費出版の費用を貯めるどころではなくなってしまいました。強い縁故のない私には不安定業務かブラック会社の選択肢しかなく、「どうせ不安定な仕事しか選べないなら、原稿書きを仕事にできるよう再挑戦してみよう」と決めました。将来的な「介護と仕事の両立」を考える必要性の出てきた時期でしたし、そうなった場合、在宅業務のほうが身動きしやすい気がしましたので。男親には「物書き稼業なんかで、親を食わせていけるつもりか!」と、一晩中罵られて殴られましたが(笑)。
    結果的に作家をやっていますが、志したきっかけはこのような不純なものなのです。
  • 影響を受けた作家、作品はありますか?
  • 『無言館』の画家さんたちや、松本竣介さん(画家)の『立てる像』など。言葉にできない衝撃を受け、今でもその衝撃が心の底に沈殿しています。
  • 執筆スタイルを教えてください。
  • 特に決まっていません。現在は身内のケアをしながら、空いた時間・使える場所で書いています。『幸せすぎるおんなたち』は身内の入院中、病棟食堂で書いたりしていました。
  • 執筆中かかせないアイテムはありますか?
  • 自宅で執筆する際は、ルルドのマッサージクッションがマストアイテムです。肩凝り体質なので、椅子の背もたれにセッティングしてゴリゴリやりつつ、書いています。
  • 好きな映画や、音楽などを教えてください。
  • 圧倒的な凄みがあるのに「評価不能」で片付けられがちな映画、際どい毒や皮肉が効いている映画、生ぬるい予定調和とは程遠いラストを突きつけてくる映画などが好物です。たとえば『レクイエム・フォー・ドリーム』『ポチの告白』『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』『エンド・オブ・ザ・ワールド(2012)』『ファイト・クラブ』『28週後…』『裸の島』『母なる証明』……。
    とはいえ、そういうものばかりでは偏食になりますので、『俺たちフィギュアスケーター』や『ショーン・オブ・ザ・デッド』のようなおバカ系で爆笑のひとときを過ごしたり、『リトル・ミス・サンシャイン』や『キンキーブーツ』といった人情ドラマでほのぼの気分になったりします。
    現時点でのマイベストを挙げろと言われれば、『山の郵便配達』と『牛の鈴音』が双璧かと。
    音楽は、5歳から18歳までピアノを習っていたこともあり、ピアノ曲が好きです。他には80'sとジャズ。FM放送やネットラジオでもちょくちょく聴いています。
  • 今、一番凝っているものは何ですか?
  • いい年をして恥ずかしいのですが、テディベアやクマのグッズ収集に凝っています(映画誌や文芸誌の映画コラムで、我流のテディベア論を寄稿したこともあります)。
    以前、某社の編集者さんからテディベアを頂戴して大感激し、机のそばに飾ったのですが、今では胃痛のタネ。「早く書け〜」と、テディの眼を通して編集者さんに睨まれているようで……。
  • 自分を動物にたとえるなら、何ですか? 理由も教えてください。
  • 動物の範疇に入るか微妙なのですが、お医者さんや看護師さんに「ゾンビ」と比喩されたことが何度かあります。超低血圧なので脈が取れない、血圧計を何度取り替えても最高血圧が通常人の最低血圧程度の数値しか出ない……。『幸せすぎるおんなたち』第4話の「女性社員の早朝出勤」エピソードはOL時代の体験に基づいたものですが、超低血圧の身には堪えました。
  • 本作の着想のきっかけを教えてください。
  • 昨今流行のご当地映画や「地方舞台モノ」への違和感からでした。やたらと「人情と素朴さ」を前面に押し出そうとするものや、逆に、おどろおどろしい土着因縁を強調したものが多く、「こんなのって、都会人の都会人による都会人のための地方モノだよなあ」と。
    何週間か田舎に滞在しただけでその土地の総てを理解したかのように錯覚している人や、長らく都会に暮らして郷愁を感じ始めた人が描く地方モノに、とりわけ違和感を覚えてしまうのです。
    そして違和感どころか薄ら寒さすら覚えてしまうのが、全国的な注目を浴びんがために「臭いものに蓋」をし、美化されたコミュニティーをアピールしてみせる地方自身と、そういう表面的な美化像を鵜呑みにして「おらが県こそ最高!」と鼻高々になる地元民。「困った地元愛だなあ」と苦笑いしていられるあいだはいいのですが、ふとした瞬間に「洗脳者と狂信集団」に見えることもあり……。もちろん、そうではない作品や地方社会、住民も存在していますが。
    現代地方社会の実例をリアルに見続けている身としては、こういう風潮に苛立ちと気持ち悪さを覚えてならず、今作を書いた次第です(全体像を書くとかなりのページ数になってしまいますので、今回はほんの一部分、「都市圏出身の主婦とママの視点」に絞りました)。
  • 地方のコミュニティーの恐ろしさを、一言でいうと?
  • コミュニティーの価値基準に沿った生き方をしないと、血も凍るような日々を味わわされること。
  • 逆に、すばらしいところを一言でいうと?
  • コミュニティーの価値基準に沿った生き方をすれば、ぬるま湯気分の日々を享受できること。
  • どんな方々に読んでもらいたいでしょうか?
  • 極端な私見ではありますが、近代化したムラ社会である「地方社会」は島国根性の凝縮版であり、日本全体もムラ社会化・島国根性化が進んでいるように感じます。そのため、地方や田舎には興味がないという方にも読んでいただければと存じます。
    もろちん、「家事育児の合間に、ちょっぴりドス黒いお話でくつろぎたい」という素敵な奥様方も、ぜひお気軽にお手に取ってくださいませ。
  • 読者の方々に一言お願いします!
  • これまでは怪談レーベルやホラーレーベルを中心に書いておりましたので、こちらの読者様は「雀野って誰?」と首を傾げておられることと存じます。今作を機に興味を持っていただけますと、まことにハッピーでございます。
    『幸せすぎるおんなたち』は、できましたら図書館ではなく書店でお求めくださいませ。と申しますのも、
    1.帯を読んでいただく
    2.イラストカバーを見ていただく
    3.物語をラストまで読んでいただく
    4.帯を外し、再度イラストカバーを見ていただく。今度はじっくりと
    5.帯とイラストカバーを取り外し、そこに描かれている「何か」を見ていただく
    という順序で読んでいただくことにより、「!」となる仕様となっているからです。
    (著者自身、見本を拝見した時は「うわあ……」と後ずさってしまいました。図書館の本はラミネート加工しているうえに帯を除去している場合がありますので、この「仕様」を楽しんでいただけないかもしれません)
    こちらの読者様にも「うわあ……」な体験をしていただけましたら幸いでございます。
  • 雀野日名子(すずめの・ひなこ)
    福井県出身。大阪外国語大学卒業。2007年に怪談小説「あちん」で第2回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞、‘08年に同作を収録した連作短編集『あちん』(メディアファクトリー)でデビュー。同年「トンコ」で第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。著書に『太陽おばば』(双葉社)、『終末の鳥人間』(光文社)などがある。

「X県にだけは足を踏み入れるものか。こんな田舎いやだ! でも、ありそう……あるのかも……?」と、初めてこの物語を読んだとき、その不気味さに心がざわついたことが忘れられません。そして、読んでいるときは終始、怖さと面白さに原稿を置くことができませんでした。怖いだけではない、爽快さを持った物語なのです。また、女性の息苦しさや葛藤も描き込まれていて、共感する部分もたくさんありました。この濃密な小説の装画に、イラストレーターのさやかさんが、ゾクゾクする素晴らしい絵を寄せてくださいました。読後見ると怖さ倍増です! ぜひお手にお取りください。
【文芸図書第三出版部 担当 丸岡】