哀しすぎるぞ、ロッパ 古川緑波日記と消えた昭和

著:山本 一生
定価:2,640円(本体2,400円)

「日本の全盛期が僕の全盛期ですかな」――戦中の街はそれでもこんなにさざめいていた。時代の喝采を一身に浴びた「昭和の喜劇王」初の評伝。原稿用紙400字に換算してじつに三万枚! ロッパが日記に綴った激動は、しばしば日本のそれと重なり、戦火を生き抜こうとした大衆の姿も生々しく描かれている。日記研究家として名高い著者が、史実とは異なる市井の時代模様を丁寧な筆致で浮き彫りにする“昭和の実録”渾身の評伝。


「此の日記、なまじの小説よりは、後年読んで面白いこと受け合ひなり」(昭和二十年二月)。
1903年に男爵家の六男として生まれ、戦前戦中戦後と膨大な日記に生涯を書き記し、1961年舞台からそのまま入院先で病死した「喜劇王」古川ロッパ。大学在学中に映画雑誌の編集者となり文藝春秋社に入社するも、「声帯模写」の才をかわれ喜劇役者として時代の寵児となる栄光の戦前期。若き日の菊田一夫を見出し数々のヒット作を連発しながら戦時下を生き抜き、戦後は「エノケン・ロッパ」と後塵を拝する凋落の日々。稀代の二枚目・長谷川一夫がロッパを終生「師」と仰いだワケ、日本人喜劇役者初のハリウッド進出の舞台裏、黒澤明作品『七人の侍』キャスティングのもうひとつの真相──等々、谷崎潤一郎、武者小路実篤、徳川夢声、火野葦平、小林一三、森繁久彌、柳家金語楼の素顔まで、彼の日記が物語るのは同時代人の赤裸々な肉声と日々の営みであり、そこに見えてくるのは日本の爛熟と崩壊、そして再生への希求だった──。日記研究家として名高い著者が、史実とは異なる市井の時代模様を丁寧な筆致で浮き彫りにする“昭和の実録”渾身の評伝。

「七時半起き、四谷から砧へ。三島の宿の撮影してると、伏水が大変な事が起ったさうだと言ふ、今朝四時六時の間に、五・一五事件以来の重大な暗殺事件あり、首相蔵相等五、六人、軍部の手に殺されたと言ふ。その後流言ヒ語しきり、何処迄本当か分らず、無気味な気持のまゝ、撮影を続ける」(二月二十六日)
 首相は岡田啓介、蔵相は高橋是清、二・二六事件である。
 三島の宿の場面を五、六カット撮り、八時には徳山たまきとともに撮影所を出たが、渋谷周辺までくると戦車の姿を見かける。
「こんな日は、家へ帰って早く寝るのが一番でしょう?」と、ロッパは語りかける。
「そうだね」と、徳山は答える。
「こんな時だけ、家がいいんじゃない?」
「そうだね。でも、こういうときいいとこが、ほんとのいいとこさ」──本文より

哀しすぎるぞ、ロッパ 古川緑波日記と消えた昭和

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